人気ブログランキング |

<   2008年 10月 ( 4 )   > この月の画像一覧

 

魔性の微笑 - Thailand Fiction 14

c0165405_15111497.jpg

Aorは夕暮れのシーロムにいた。就職はそんなに甘くはなかった。チェンマイのユニバーシティは所詮田舎の学校だった。プライドが高い彼女には耐え難かった。
Aorは子供の頃から何でも思い通りにならなければ気がすまなかった。流行の物は何でも学校で一番最初に手に入れた。周りの人々は彼女の天性のおねだり上手の前に成す術もなく頷く・・・澄んだ瞳と微笑みが魔物だった。愛らしいマスクの下には強欲を隠していた。

あの時もそうだった。ハイスクール最後の年は何でも彼女の思い通りだった。成績も、スポーツも、ファッションも・・・文化祭のイベントでは当然の如くミスに輝いた。
まるでプリンセスのような日々を送っていたある日、Aorはチェンマイの街角を仲良く手をつないで歩くファランのカップルを見た。「なんかいい・・・絵になってる、幸せそう」消えかかっていた羨ましいと思う気持ちが一気に高まった。
「私もああして歩きたい・・・もうすぐロイカトーンだし」そう思うと友達のNunに電話をした。
「イケ面で背が高い子知ってる?・・・ああKitね。目立たないけど確かにまあまあいい顔ね」
あとは簡単だったNunに「Kit!あなたもてるわね。Aorがあなたのこと気に入っているわよ。ロイカトーンに誘ってみれば・・・」と言わせればいいだけだった。

Kit とはそうして始まった。恋人というより連れて歩くアクセサリー兼召使だった。Aorが愛したのは自分だけだった。やさしいのは言葉だけで気持ちはなかった。して欲しいことをさりげなく言うとKitは何でもした。送り迎えから荷物持ち・・・Aorにプレゼントするためバイトに精を出した。まるで奴隷のように・・・でもそれがKitの喜びだった。そして結婚を夢見た。

★Back Number
疑わしきは罰せず - Thailand Fiction 13

涙の名演 - Thailand Fiction 12

ファースト・インプレッション - Thailand Fiction 11

暗黒への旅路 - Thailand Fiction 10

イージー・マネー - Thailand Fiction 9

孤独の旅路 - Thailand Fiction 8

嘘のつき方 - Thailand Fiction 7

モーチットの再会 - Thailand Fiction 6

チェンマイの宝物 - Thailand Fiction 5

ラチャダーピセークのシャワー - Thailand Fiction 4

留守電の疑惑 - Thailand Fiction 3

ハリウッド・アワードの酔っ払い - Thailand Fiction 2

スワンナプームの光景 - Thailand Fiction 1


by Sukhumvit_Walker | 2008-10-29 15:12 | Thailand Fiction  

疑わしきは罰せず - Thailand Fiction 13

c0165405_21175868.jpg

  「信じてって言っても説明してくれないとわかんないよ・・・」
「セツメイ・・イミ何?日本語難しい。わかんないよ・・・愛してるジュンイチ」
  「説明・・・こっちはタイ語がわからないよ。とにかくどうして電話がクローズドだったの」
「バッテリーがなくなったの・・・ごめんなさい」 
Farはジュンイチの声のトーンが変わったのを見逃さなかった。返事を最小限に留め様子を伺う。後はジュンイチの話にうなづけばうまく行くはずだわ・・・そう思い返事を待った。
  「バッテリーがなくなった?最初はBodyslamが流れたぜ。その後から留守電だよ。どうして出れなかったの?」
電源を切ったのはKit。でも彼は電話には出てない・・・たぶんそんな感じね。Farは状況を把握し最も無難な言い訳をした。
「ごめんなさい。疲れて電話バックに入れたまま寝ちゃったの」
  「本当?信じていいの?」 ジュンイチが少し安堵して答えた。
「本当って・・・寝てただけなのよ」
  「いや、いつもみたいにすぐ出ないから心配して・・・Farのこと愛しているから心配するんだよ。怒ってごめんね」
疑惑はあるが証拠はない。疑わしきは罰せずかぁ・・・彼女は本当に寝てただけかもしれない。この女を信じよう。ジュンイチはごめんねと言った後に自分にそう言い聞かせた。心が決まると気分も晴れ声も明るくなっていった。もうすっかりFarに甘いジュンイチに戻っていた。
  「仕事が終わったら電話するね。愛しているよFar」 
ジュンイチはやさしい声でそう言いミーティングに戻った。

★Back Number
涙の名演 - Thailand Fiction 12

ファースト・インプレッション - Thailand Fiction 11

暗黒への旅路 - Thailand Fiction 10

イージー・マネー - Thailand Fiction 9

孤独の旅路 - Thailand Fiction 8

嘘のつき方 - Thailand Fiction 7

モーチットの再会 - Thailand Fiction 6

チェンマイの宝物 - Thailand Fiction 5

ラチャダーピセークのシャワー - Thailand Fiction 4

留守電の疑惑 - Thailand Fiction 3

ハリウッド・アワードの酔っ払い - Thailand Fiction 2

スワンナプームの光景 - Thailand Fiction 1


by Sukhumvit_Walker | 2008-10-19 16:54 | Thailand Fiction  

涙の名演 - Thailand Fiction 12

c0165405_1133230.jpg

いつもと同じ様にしなければ・・・Farは呼び出し音が5回鳴ったところで電話を切った。10分程でコールバックがあるはずだ。ジュンイチとの電話はいつもそうだった。3分経っても電話は鳴らない・・・いつもは気にしない時間が長く感じた。ほどなくタクシーはアパートに着き、Farは携帯を握り締めたまま部屋のベットに腰掛け待った。

午後のミーティングが始まった。昼休み電話をしたが留守電のままだった。もういいやと思っても携帯に目が行く。仕事に集中して忘れよう。そう思い携帯をポケットに入れようとした時、突然携帯が震えた。Far?・・・ジュンイチは期待してディスプレイを覗いた。Farだ!それまでの苛立ちがうそのように消え安堵すると同時に、今度は強烈に電話をしたい衝動に駆られた。ミーティングは始まったばかりだ。しばらく我慢していたが居ても立ってもいられなくなり、30分後にトイレと言って中座した。急ぎ外に出て電話をする。Bodyslamのメロディがまどろっこしい・・・

もうかかってこない?そう不安を覚えた時、着信を知らせるBodyslamの曲が部屋に響いた。落ち着かなきゃ・・・そう自分に言い聞かせ10秒程待ち電話をとった。
「ハロー」Farがそう言うなり、ジュンイチは一気に思いのたけをまくし立てた。
 「一体どこに行ってたんだ!電話をクローズドにしてるし!誰と一緒だったんだ!」
 「昔みたいに男と一緒なのか?今度はタイ人か?日本人か?おい!聞いてるのか?」
ジュンイチの罵声を聞きながらFarは勝ったと思った。悲しいことを思い浮かべ、ただ電話ですすり泣いた。しばらくすると案の定ジュンイチの声のトーンが変わった。
 「おい!Far泣いてるのか?どうしたんだ?Far・・・泣くなよ」
「ごめんなさい・・・」それだけ言いまたすすり泣く。
 「ごめんなさいって・・・男と一緒だったのか・・・」ジュンイチの声は明らかに狼狽していた。
「うぅん、ただ悲しい。ごめんなさい・・・あなただけなのに・・・夜の女だったからやっぱり信じないのね・・・悪いことしてなくても信じてもらえないのね。愛しているのに・・・」
少し間を置きか細い声でFarはそう言った。

★Back Number
ファースト・インプレッション - Thailand Fiction 11

暗黒への旅路 - Thailand Fiction 10

イージー・マネー - Thailand Fiction 9

孤独の旅路 - Thailand Fiction 8

嘘のつき方 - Thailand Fiction 7

モーチットの再会 - Thailand Fiction 6

チェンマイの宝物 - Thailand Fiction 5

ラチャダーピセークのシャワー - Thailand Fiction 4

留守電の疑惑 - Thailand Fiction 3

ハリウッド・アワードの酔っ払い - Thailand Fiction 2

スワンナプームの光景 - Thailand Fiction 1


by Sukhumvit_Walker | 2008-10-09 11:03 | Thailand Fiction  

ファースト・インプレッション - Thailand Fiction 11

c0165405_13165640.jpg

お店に出て2日目、訳も判らず客とアフターしてホテルに行った。お金を貰おうとしたら客は怒り出した。翌日ママからものすごく怒られた。「ママとは付き合い長いから正直に言うけど、昨晩あの新しい女とホテルに行ったんだ。俺が誘ったんじゃないぜ。あの女から誘ってきたんだよ。お金を払うなら行かないって言ったら、あなたが好きだとしつこく言うんだよ。いい女だしかなり酔っ払ってたしな。成り行きで行ったんだよ。そしたら事が終わってから金をくれだって・・・よく日本語分かってない感じだったし3万小遣い渡したけどね。でもやめさせた方がいいよ。売春宿と間違われちゃうよ」客からこんな電話があったという。

ペナルティーとして新たに10万の借金ができた。今度やったらクビだという。愕然としているとPloyが出勤してきて罵声を浴びせた。「あなた私の客と寝たでしょ!この泥棒猫!」ここがタニヤとは別世界なのを初めて実感した。落ち込んでしょげているとPingがやって小声で囁いた。「あなた馬鹿ねぇ。もっと上手にやりなさい・・・Ployだってママにばれないように同じようなことやってるんだから。でも他人の客は絶対取ったら駄目よ・・・」
お店の女の子はみんなライバルだった。可愛い顔をして優しそうに見えても、裏ではあらゆる手を使い利権である客の奪い合いをしていた。ただ笑ってホテルに行くタニヤとは違い、自分のすべてを武器にしないとお金は稼げなかった。

この事件以来Farは店でもアパートでも女の子からよそよそしくされた。陰口を言われるだけでなく、数人の客が店で露骨に身体を触りホテルに誘ってきた。じっと耐えるしかなかった。クビになったらお金ばかりか住むところさえない。がんばろうと努力したが、なかなか接客のコツはつかめなかった。指名がない日々が続いた。焦り、苛立った・・・経済的にも行き詰まりタイへの送金どころじゃなかった。ふとCatに会いたいと思った・・・日本のどこかに彼女はいる。少しでも心を許せる誰かが傍に居てほしかった。何もかもがいやになり逃げ出したい気持ちだった。そんな時ジュンイチと出合った。

日本語しか話さない他の客と違いジュンイチは少しタイ語を話した。ジュンイチは他の子のうまい日本語より、Farの片言の日本語とタイ語が混ざった会話がバンコクみたいでいいと喜んだ。Farの心は久しぶりに晴れた。小太りな体形に高そうなスーツ、腕にはローレックス・・・お金持ちとFarは思った。ヨレヨレの服を着てカラオケを歌い飲んだくれてる他の客とは明らかに違った。ハンサムじゃないが、良く見ると眼鏡の奥から愛嬌のあるやさしそうな小さな瞳が微笑んでいた。このお金持ちを放しちゃいけない・・・これがジュンイチへの第一印象だった。

そこまで回想した時、我に返った。決心し携帯の電源を入れジュンイチの番号を押した。何か言われたらとにかく謝るしかない。あのやさしい小さな瞳はきっと許してくれる・・・今までもそうだったように。

★Back Number
暗黒への旅路 - Thailand Fiction 10

イージー・マネー - Thailand Fiction 9

孤独の旅路 - Thailand Fiction 8

嘘のつき方 - Thailand Fiction 7

モーチットの再会 - Thailand Fiction 6

チェンマイの宝物 - Thailand Fiction 5

ラチャダーピセークのシャワー - Thailand Fiction 4

留守電の疑惑 - Thailand Fiction 3

ハリウッド・アワードの酔っ払い - Thailand Fiction 2

スワンナプームの光景 - Thailand Fiction 1


by Sukhumvit_Walker | 2008-10-03 13:17 | Thailand Fiction