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孤独の旅路 - Thailand Fiction 8

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出社したが悶々として仕事が手につかない。10分毎に電話するが留守電メッセージがむなしく流れるだけだ。アシスタントの子もいらいらに気づいたようでよそよそしい。触らぬ神に祟りなしってところか。

ジュンイチとFarが出合ったのは3年前だった。その頃ジュンイチの生活は荒れていた。名古屋からの単身赴任は2年目に入り、妻との間に溝ができ、単身というより別居生活になっていた。東京本社に転勤が決まった時、子供はまだ小6だし家族で引越すもの思い込んでいた。しかし子供の転校の影響と足が悪い実家のお母さんのリハビリを手伝うことを理由にやんわり断られた。妻とは名古屋支社での職場結婚であり最初は人が羨むようなカップルだった。だが子ができ、妻が実家に入り浸るようになってから少しずつ歯車が狂い始めた。

東京で生活を始めて見ると意外にも妻の呪縛がとれ単身を楽しんだ。本社での仕事は新しいタイでのプロジェクトが主で、バンコクは2ヵ月に1度程度行った。タニヤやMP遊びもその時覚えた。オキニも出来、擬似恋愛とわかっていてものめり込んでいった。でも楽しみは長く続かなかった。1年半経つとプロジェクトの仕事は現地法人に移行され終了し出張も無くなった。オキニに会いたくて半年後プライベートで会いに行ったが、次いつ来るの?って聞かれた時、年に何度も来れない現実を認識した。

妻から突然離婚を迫られたのはそんな時だった。改めて考えたら、多忙とバンコク出張を理由に、ここ2年で4回しか名古屋に帰っていなかった。たまに帰る名古屋には自分の居場所はもう無くなっていた。妻にはリハビリ施設で知り合った男がいる様な気がしたが、もうどうでもよかった。生活から妻子の存在が消えていた・・・離婚にはすぐ応じなかったが、もう心は名古屋には無かった。

ふと孤独を感じた・・・家族も女もいなくなった。寂しさを紛らわすため毎日飲んだ。銀座や新宿の女に癒しを求めた。でも何かが違った・・・バンコクが懐かしかった。
気がつくと上野のタイスナに毎晩通うようになっていた。タイ語の響きが心を癒してくれた。ある日夜遅く寄ると新しい女がいた。小顔で目が大きく色っぽい唇をしていた。それがFarだった。

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# by Sukhumvit_Walker | 2008-09-11 19:00 | Thailand Fiction  

嘘のつき方 - Thailand Fiction 7

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「Kit!どこに行ってたの?!!!」 Farはいきなり入ってきたKitにそう叫んだ。
  「まだ寝てると思ったよ。携帯なくして探しに行ってたんだ。Spoonにあったよ」 
帰るタクシーの中で考えた言い訳をさらりと言った。
こういう時はあまり多くを語ってはいけない。詳しく話すとボロが出る。そう自分に言い聞かせ、言い訳の補足をしたい衝動をぐっと我慢した。数秒の沈黙がやたら長く感じる。何か話さなきゃと思った瞬間・・・「心配したじゃない。起きたらいないんだもん・・・」 Farが細い声でポツリと言った。

心がKitに抱きつきたいと欲するが、目の前には昨日と別Kitがいた。目から微笑みが消え、言葉には甘い響きがない。そんなKitを見ていると少しづつ冷静さが戻ってきた。気弱なハートが消えいつものFarが蘇る。ふと昨夜のKit身勝手さを思い出す。
「出かけるくらい言ってもいいじゃない!」
  「言ったさ!でも泥酔してただろ!」 
思いがけない強い調子のFarの言葉に、少し感情的にKitは応えた。
「そんなの聞こえなかった。酔ってるのわかってるんだからちゃんと起こしてよ!やるだけやって出かけるなんで勝手過ぎるんじゃない!しかもここどこよ!私のアパートに送ってくれんじゃなかったの!エアコンないしマイサバーイ!!」 Farは感情を一気にぶちまけた。
  「エアコンなしで悪かったな!俺には日本人のスポンサーなんかいないしな!」 
「なによそれ!」 Farの怒った目から涙が溢れ出す。
「帰る!」 Farは急いで服を着、取るものをとって飛び出して行った。

言い過ぎたと思いFarを追おうと思ったがKitは思い止まった。Farを失うかもしれないと思ったがAorを失うのは絶対いやだった。冷静に嘘をついたのが良かったと思った。可哀想だったが、Farが勝手に出て行ってくれたのだ。結果論だが思いがけない展開に安堵した。あまり時間がない早く女の痕跡を消そう・・・Kitは気持ちを切替え部屋を掃除し始めた。

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# by Sukhumvit_Walker | 2008-09-05 22:00 | Thailand Fiction  

モーチットの再会 - Thailand Fiction 6

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人込みの向こうにAorを見つけた。目が合うとAorの疲れた顔が笑顔に変わり手を振った。人目もはばからずAorと名前を呼ぶKit・・・10ヶ月ぶりの再会だ。

「ごめんね。朝早くから・・・眠いでしょ、大丈夫なの?・・・シーロムには10時でいいの」

  「大丈夫、Aorこそ眠れた?・・・」 時間が有り過ぎる。アパートはマズイ!なんとかしなきゃ。
  「早いけど渋滞も心配だし面接に遅れたらいけないから、このままシーロム行こう・・・」 

タクシーでシーロムに入るとラッキーにも24時間オープンのMacを見つけた。面接する会社は目と鼻の先だ。座って話をするAorを見つめる。相変わらず素敵な笑顔だ・・・幸せな時はあっという間に過ぎ時間になる。Aorは面接後、午後から2~3の会社を回ると言う。終わったら電話をもらうことにし、ボストンバックを預かりAorを送り出した。疲れたのか安心したのか不意に睡魔が襲う。落睡・・・首の痛さで目が覚めた時はすでに13時を回っていた。

「やばい!帰ってFarを追い出さなきゃ・・・」ボストンバックを抱え急ぎラチャダーに向う。アパートのドアを開けるとバスタオル姿のFarが振り向いた。

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# by Sukhumvit_Walker | 2008-08-30 12:17 | Thailand Fiction  

チェンマイの宝物 - Thailand Fiction 5

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「このバスだろうか・・・それとも着いてるのか?」そう思いながらKitはモーチットのバスターミナルでAorを探していた。AorはチェンマイにいるKitの恋人だ。彼女が大学を卒業したら結婚したいが、稼ぎが少ない彼をAorの父親が嫌っていた。Kitは稼くためにクルンテープに来た・・・Bangkok Dreamを夢見て・・・学歴もない彼に昼間の高収入の職があるはずもなく、友達に夜の仕事を紹介され見様見真似で始めた。

Aorとはハイスクールからの付き合いだ。頭が良くて美人・・・最初は遠くから眺めているだけだった。淡い初恋だった・・・あのロイカトーンの夜までは。
メナーム川の岸辺で花火が打上げられ・・・ステーションから着飾った女達のパレードが来る。プラテイープのろうそくがロマンティックに揺れる。チェンマイのロイカトーンはシャイな少年だったKitに魔法をかけ勇気を与えた。
今でもその夜のことは幻想のようだ。ナイトバザールのフードコートに呼び出したまでは覚えているが、何を話したのか?何をしたのか?・・・すべて幻のようだ。夢の世界で結ばれた・・・気がついたら手をつなぎピン川の河原を歩いていた。

それ以来Aorは特別な存在・・・神様から授かった宝物だ。その彼女から電話があったのは朝6時前だった。寝入りばな夢うつつで電話に出たがAorの声を聞き飛び起きた。

「急に就職の面接が今日になったから最終のバスに乗ったの。仕事が終わったころ電話をしたんだけど・・・仕事遅かったの?・・・」
確かに電話を受けるときディスプレイを見たら着信有りだ。Farと一緒で全く気付かなかった。
  「ごめん酔ってて・・・バスターミナルまで迎えに行くから・・・」 
そう言って電話を切ると、寝ているFarに構わずアパートを飛び出した。

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# by Sukhumvit_Walker | 2008-08-28 19:42 | Thailand Fiction  

ラチャダーピセークのシャワー - Thailand Fiction 4

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暑い・・・あまりの暑苦しさでFarは覚醒し始めた。エアコンもなく締め切った部屋の空気は、午後の照りつける太陽で熱せられ、澱み息苦しい。扇風機が熱い空気をかき回し、身体中に汗がまとわり付く・・・頭痛がし吐き気がする。完全に二日酔いだ。停止していた思考が、ラチャダーのKitの部屋に居ることに気付くとともに、少しづつ働き始め目を明けた。

いきなり自分の剥き出しの下半身が目に飛び込む・・・股間は汚れ左足首にパンティが絡まっていた。Kitはいない・・・記憶はSpoonに入ったまではあるが、あとは洗面所とKitの身体の重さがとぎれとぎれに甦るだけだ。身勝手に欲望を吐き出したKitに腹を立てたが、彼がいないことがFarの不安を掻き立てた。「キィ ツゥン・・・Kitどこなの?」起き上がりシャワールームに向う。

Kitとは3ヶ月前、Hollywood Awardsで出合った。長身でやさしそうなフェイスがFarのタイプだった。若い頃何回も騙された経験から、もうタイ人は懲り懲りと思っていたにも関わらず、Kitとはその夜関係を持った。日本人に囲われて生計を立てるようになってからは、極力リスキーなことは避けてきたし、今度も夜の男との1回限りのアバンチュールのつもりだった。でも年下のいい男から「そんな年には見えない、きれいだ・・・Hollywoodの客だから言っているんじゃない。愛してる」と言われると嘘だとわかっていても浮かれていった。そして何より久しぶりにタイ語で愛を語り合えることがうれしかった。気が付いた時には、身も心も、そしてお金もKitに捧げていた。

シャワーはFarの覚醒を早めた。頭痛はするが思考ははっきりしてきた。「とりあえずKitに電話ね」そう思いバスタオルに身を包んだ。

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留守電の疑惑 - Thailand Fiction 3

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# by Sukhumvit_Walker | 2008-08-25 21:26 | Thailand Fiction